
第十六回 良い文章を書くには(8)
第十六回 良い文章を書くには(8)
新人賞の原稿を拝読していると、これから小説を書こうとしている人々にこのコーナーでお伝えしなければならないと思うことがたくさんあると感じてしまいます。
第一回ダイナミックアーク新人賞の選考会の席上で、各選考委員の先生方が口をそろえておっしゃってらしたように、全体的に文章力が弱い。文章力は作者が読者に、作者の思想や感情を伝える手段ですから、この部分が弱いと、すなわち作者が言いたいことが読者に伝わらないわけです。ここの強化を図って、今年はこのコーナーを進めてきたつもりです。
けれども第二回の応募作を拝見していても、やはり文章力の弱さが目立っていました。文章力を身につけるためには練習しかありません。その練習とは自分の書いた文章を読み返し、書き直す。この繰り返しを続けるだけです。あたかもピアニストがコンサートの前に同じ曲を何度も繰り返し弾くように。一回ざっと書いただけ出来上がり、なんてことは小説でも演奏でもありえません。
実はこのコーナーを創設するに当たって、書店におもむいて参考になるような資料を捜しました。「小説の書き方」と題する本はそこそこ発売されています。ところが、筆者が考えているような内容を含んだ本はほとんどありませんでした。ですからこのコーナーも思いつくまま、みなさんの原稿を参考にして必要と思える部分を書きつらねているわけです。
今回は「改行」について考えていこうと思います。
多くの小説は「地の文」と「会話」からなっています。そして「地の文」にはたいてい改行があります。というと「会話」には改行はないのか? と思われるかも知れませんけれども「会話」には原則として改行はありません。
会話とは二人以上の複数の登場人物が喋っている状態をいい、小説では「 」で表されます。一人だけで喋っていたら気持ち悪いですから。また一般社会ででも他人の意見を聞かないで、自分ばかり喋っていたら嫌われるのと同じで、適度にやりとりがあるべきです。
ですから会話中に改行が含まれるほどの長文を書くべきではありませんし、またのちほど説明する改行の性格上、会話の中に改行が入り込む余地はないはずです。しかしどうしても、たとえばミステリーなどの大団円で探偵役の登場人物が謎を説明する場合などは、一人が延々と喋る必要がないとも限りません。この時は、一つの「 」で一度に全部を喋らせるのではなく、「 」をいくつかに分けて喋らせればいいのです。
探偵は一同を広間に集めて喋りはじめた。
「――(探偵のセリフ)――」
彼は立ち上がってタバコに火をつけると、難しい顔をして全員の顔を改めて見渡した。
「――(探偵のセリフ)――」
ゆっくりと歩いて宏治の前に立ちどまった。宏治は額に汗を浮かべていた。
「――(探偵のセリフ)――」
つまり喋っている人の動作や表情、、相手の動作や表情を会話の間にはさむことで、改行と同じ効果が得られるため会話中に改行する意味がないのです。もし会話中に改行があるような小説を読んだことがあるとすれば、その作者の技量が未熟なのだと思います。
さて、地の文では改行がなされます。
今回のこのコーナーでも、ここまで進めてくるうちに何度か改行しています。
改行から改行までの文の塊を「段落」といいます。
今回のこのコーナーの最初の段落は「導入部」で「これから述べようとしていること」を書きました。ふたつ目の段落はそれを受けて「第一回新人賞」について、三つ目は「文章力の強化」についてと、一つ一つの段落で述べていることが違うわけです。逆ないい方をすると、ひとつの段落では同じ内容がまとまっているわけです。
応募作を調べますと、書かれている内容がひと塊にもかかわらず改行をしているような作品も多々ありました。それは作者が自分が何をどういうつもりで書いているか理解していないとしか思えません。このような作品は新人賞の選考で残ることは難しいと思います。
このコーナーは「HTMLのベタ打ち」で表示していますから、読みやすいように話題が大きく変わるときにはさらにもう一行加えています。
ダイナミックアーク新人賞は読者投票による受賞もありますから、多くの読者に御覧いただくため下読み審査はわりとゆるい基準で行っています。変な改行が含まれる作品もあるやもしれません。このような部分にも注目して、是非厳しい目でお読み下さい。




