
第十四回 良い文章を書くには(7)
第十四回 良い文章を書くには(7)
先月のこのコーナーでは、文章のリズムと漢字をヒラくことについて、お話をしました。
漢字が多い文章は見た目がなんとなく硬く、読むのをためらってしまいます。また、書かれている文体――たとえば語り手が小学生だったりすると、むずかしい漢字が使われているだけで、語り手が小学生ということに違和感を覚えてしまいます。
これはいわば、文章の視覚効果です。
おなじように文章の視覚効果を考えて、書くときに使うのがカッコです。
ふつう「 」は会話の時に使います。『 』は会話内の会話に使うカッコです。例文で見てみましょう。
貴弘は溜息を付いた。
「だから、結衣は『新司のことは大嫌い』って言ってたから、無理だってば……」
元気づけるように新司の肩を、彼は叩いた。
最初の「 」は貴弘のセリフで、その中の『 』は結衣のセリフだとわかります。ところで、 この文章の、貴弘の年齢はいくつくらいでしょうか? ラブ・ストーリーの一説のように思えますけれど、学生とも思えますし、もう少し年上にも思えます。
貴弘はため息をついた。
「だから、結衣は『シンジのことは大キライ』っていってたから、ムリだってば……」
元気づけるようにシンジの肩を、彼はたたいた。
このように書くと、彼らの年齢がグンと下がった気がしませんか? これも視覚効果です。朗読してしまうと、まったく同じ発音になりますけど。
さて、例文では一般的なカッコの使い方を示してみました。けれども、カッコはこのふたつ以外にもあります。( )や〈 〉や〝 〟もあります。どんな場合に使うのでしょうか。
「助かったわ。でもそれどころじゃないの。あれを見られてしまったの」
ヘンリーは大きく目を開けた。「おう。何てことだ」
(どうしよう、お姉ちゃん)ノリオは涙ぐんでいた。
この例の( )はテレパシー部分すなわち、心の中で思っていることを示しています。
もちろん、心の中で思っていることを必ず( )で表現しなければならないとの文章上のルールはありません。「 」とは違う意味を持ったセリフなのだと区別するために( )を使っているのです。
〈 〉もいろいろと使い道がありそうです。米田淳一著「プラスティック・プリンセス」シリーズではいくつもの戦艦などの船が登場します。その船の名前は〈 〉で示されています。
〝 〟もある特定の単語を強調するときに使われることが多いようです。例えばこんな使い方です。
電子書籍の場合、ダウンロード数は紙の本の発行部数ではなく、実売部数に相当する。また印税率についても、紙の本のようないわゆる〝業界の慣習〟はなく、それぞれ個別に交渉する必要がある。
ここでは業界の慣習という言葉を〝 〟でくくることで、特別な意味を持たせる工夫をしています。
さまざまなカッコは使い方次第で文章に幅を持たせることができますし、視覚効果としてはアイ・キャッチにもなります。
けれども、カッコを使う上で注意をしておくことがあります。「 」などと同じようにどんなカッコを使う場合でも書き出しはヒトマスあけません。
また、ひとつの作品の中では統一した使い方をしなくてはなりません。( )が心の中に思ったことを表現しているならば、その作品中では他の使い方をしてはいけません。読者が混乱するからです。
さらには、いくつものカッコを多用しないこと。文章が下品になりますし。そのカッコの使い方について読者がいちいち注意を払って、自然な読書が妨げられてしまいます。
良い文章は本来そのようにカッコを使わずとも、自然と頭の中に入ってくるべきものでありたいと思います。
しかし、効果的に使われるカッコも、良い文章表現に彩りを添えるものですから、よく考えて使って下さい。カッコはまだまだ種類はあります。【 】も《 》もあります。カッコイイ使い方を編みだすのも一興でしょう。




