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第九回 良い文章を書くには(2)

第九回 良い文章を書くには(2)


 前回、良い文章を書く唯一の方法は、読むことと書きました。これは実際、最も重要なことです。
 けれども、当たり前ながら、読んでいるだけでは文章は上達しません。次に大切なことは文章を書くことです。
 文章を書くこと――いや、だから、文章は書けるんだよ。どうやったら良い文章になるのかを訊いているんだ……ですよね。
 実は簡単な方法があります。というか、方法はこれしかありません。
 でも、その文章は何度書き直しましたか。
 最初にある文章をすらすらと書いて、それで終わりではありませんよね。
 ひとつの文章を何度も何度も何度も書き直しましたか。少なくても十回程度は書き直して下さい。注意して、良い文章になるように書き直して下さい。

 わたしがよく挙げる例にミュージシャンがあります。ピアニストでもギタリストでも、どんな楽器演奏者でも結構です。ミュージシャンを思い浮かべて下さい。
 彼はオーティションを控えています。
 幼い頃から楽器を演奏するのが好きで(実際、ピアニストは三歳頃から始めたという人が多いようです)、時間を作ってはいつも練習していました。今ももちろん毎日同じ曲を何度も弾いては練習しています。
 数日後に迫ったオーティションは、人前で真剣に初めて聴かせるというものです。そのことを考えただけで、もう今から心臓は高鳴ってしまいます。
 師匠は「緊張をやわらげるためには練習しかないんだ」と常々いっています。その通りだと思って、今までに増して練習の回数を重ねています。
 ミュージシャンは人前で演奏するために血の出るほど練習をします。



 では、なぜ文章は一回書いただけで人前に出すことができると思うのですか。
 文章だって同じです。人に読んでもらうためには、何度も何度も何度も……練習しましょう。
 わたしが推奨するのは、原稿用紙に手で、まるで写経をするように何度も書き直す方法です。写経ではありませんから、当然まったく同じ文章を写すわけではありません。同じ内容、いやちがっていてもいいのですけど、その文脈にふさわしい文章、自分の感性や自分が表現したいことに最も当てはまる文章になるまで、あるいは読者に与える印象、効果、誤読される畏れはないのか、過不足はないのか、などを考えて、何度も何度も書き直して下さい。



 ミュージシャンは練習を一日休むと、その遅れを取り戻すまで数日かかるといいます。このことは文章だって同じです。つまり、良い文章を書こうと思うなら、文章を毎日書きましょう。
 もう一度いいます。
 ただ書けばいいのではありません。良い文章になるよう注意しながら毎日書いて下さい。演奏でもスポーツでも執筆でも同じです。毎日緊張感と集中力を持って何度も繰り返すことしか上達の道はありません。
 プロの作家の文章は上手です。彼らは、緊張と集中をしながら毎日膨大な量の文章を長年書き続けているのです。そんな彼らの一員になるためには、プロの作家の何倍も練習と努力をしなければ勝負になるわけありませんよ。


 話を先ほどのオーディションに戻しましょう。
 いよいよオーティションが始まりました。このオーディションには当然参加者が何人もいます。誰もが今日まで寝食を忘れて何度も練習してきた者ばかりです。しかし、だからといって全員がオーディションに合格するわけではありません。ひとりかふたり、ごくわずかな人数しか合格せず、参加者の大半は不採用になってしまうのです。
 仮に、運良くオーディションに合格したとしても、実はそれはやっとスタートラインに立っただけです。練習をさぼると、他の競技者にたちまた差をつけられてしまうのは間違いありません。他の競技者とは長年この道でプロフェッショナルとして君臨してきた人たちですから、むしろ今までよりも競争は熾烈になっているともいえます。毎日、気が遠くなるような練習回数を続けることで、やっとその道で走り続けることができるのです。



 良い文章を書く――。
 このミュージシャンとなんら変わる所はないと思います。



 (担当:幸森軍也)


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